活動

2021年3月24日

記憶の情報処理を担うシナプス伝達を実測
公募研究A03佐々木 拓哉の研究がCell Reportsに掲載されました

動物の記憶や情動の個性は、多数の神経細胞の活動パターンとそれらを繋ぐシナプス伝達によって表出します。実際の動物の脳において、このような神経活動信号を計測することは重要です。しかし、実験の技術的な難易度の高さから、生きた動物脳において、記憶に真に重要な神経細胞のシナプス伝達を捉えることは不可能でした。本研究では、精緻な電極設置技術の開発を試み、生きたラットの海馬に32本の電極埋め込んで多数の神経細胞の活動を計測(マルチユニット記録法)し、さらに前頭前皮質からガラス電極を用いて詳細なシナプス電位信号を計測する技術(パッチクランプ記録法)を開発しました(図A)。この2つの技術を組み合わせたのは世界初です。記録の結果、記憶に重要な海馬神経細胞が活動した時に、前頭前皮質細胞のシナプス伝達が増加することが分かりました (図B, C)。この結果は、海馬から前頭前皮質への情報伝達では、重要な記憶情報を優先的に伝達する特性があり、これは効率的な記憶情報処理メカニズムの一つであると考えられます。

本研究から、記憶の情報伝達を司るシナプス動態が実測されました。このような脳情報処理メカニズムを通じて、動物の様々な個性の表出が起こると考えられます。

本研究の発表文献

  • 題目:Prefrontal synaptic activation during hippocampal memory reactivation
    (海馬の記憶再生と前頭前皮質のシナプス伝達)
  • 雑誌:Cell Reports(セルリポーツ)
  • 著者:Yuya Nishimura (西村侑也), Yuji Ikegaya (池谷裕二), Takuya Sasaki(佐々木拓哉)
  • 受理日:2021年2月26日
  • 出版日:2021年3月24日

図 (A) ラットの海馬に多数の微小電極を埋めて、記憶学習に重要な海馬神経細胞と、前頭前皮質神経細胞のシナプス伝達を同時に記録した。(B) 本研究の発見の概要。海馬で記憶に重要な神経細胞の活動が起こると、前頭前皮質のシナプス伝達が増加する。(C) 実測データの一例。新しい記憶情報に対応した海馬神経細胞が活動すると、それ以外の細胞が活動した時より、前頭前皮質の神経細胞において、有意に大きなシナプス伝達が観察される。*印は、有意差を表す。