活動

2020年7月2日

自閉症や統合失調症、薬物依存など、様々な精神疾患に関わるAUTS2遺伝子がシナプスの形成や恒常性維持に関わることを発見

国立精神神経医療研究センター(NCNP)神経研究所の堀啓室長および星野幹雄部長(本領域計画研究代表者)らの研究グループは、自閉症や統合失調症、薬物依存など、様々な精神疾患に関わるAUTS2遺伝子が中枢神経のシナプス形成やその恒常性維持に関わることを明らかにしました。

AUTS2遺伝子は、自閉症スペクトラム障害や統合失調症、ADHD、薬物依存など様々な精神疾患に広く関連することが分かっていました。この遺伝子がコードするAUTS2タンパクは、胎児期や乳児期の脳の中で神経細胞の形態や動きを制御したり、脳の発達に関わる様々な遺伝子の発現を調節したりするなど、多様な働きを持つタンパク質であることが示されていました。一方で、AUTS2は成熟した成人の脳にも存在しますが、その働きについてはほとんど分かっておらず、この遺伝子の異常がどのようにして様々な精神疾患を引き起こすのかも明らかにされていませんでした。

この度、本研究グループは、生後、脳が発達していく過程で活発に作られたり刈り込まれたりする「シナプス(神経細胞同士の結合部分)」に着目し、AUTS2タンパクがシナプス形成に果たす新たな役割を明らかにしました。脳内の神経細胞は、神経活動を促す「興奮性シナプス」と、逆にそれを抑え込む「抑制性シナプス」で繋がっており、これらの数がバランスよく保たれることで、健やかな精神活動が営まれます。我々は、AUTS2が興奮性シナプスの新規形成を抑え、刈り込みを促進することで、結果的に興奮性シナプスの数が増えすぎないように調整していることを見出しました。一方で、抑制性シナプスに対してはこのような働きがありません。AUTS2の機能が失われると、興奮性シナプスの数は増えますが抑制性シナプスは変わらないため、興奮性/抑制性のバランスが破綻してしまい、脳が常に興奮した状態になってしまいます。今回の発見から、AUTS2遺伝子の変異を持つ患者さんでは、脳内の興奮性/抑制性シナプスバランスが破綻した結果、てんかんやあるいは各種精神症状が引き起こされるのではないか、ということが明らかにされました。今回の成果は、神経接続の基本単位であるシナプスの数を制御するメカニズムを明らかにしただけでなく、各種精神疾患やてんかんなどの発症機構の理解にもつながるものだと考えられます。

この研究は、本領域の郷康広・計画研究代表者(A03、生理学研究所)と菅野康太・公募研究代表者(A02、鹿児島大学)の支援を受けて行われた共同研究です。
本研究成果は令和2年6月26日に科学雑誌「iScience」に掲載されました。

【図1】Auts2遺伝子変異マウス脳内に見られる興奮性シナプスの形成

【図2】Auts2遺伝子の異常が引き起こす神経回路機能障害

発表論文

Hori K, Yamashiro K, Nagai T, Shan W, Egusa SF, Shimaoka K, Kuniishi H, Sekiguchi M, Go Y, Tatsumoto S, Yamada M, Shiraishi R, Kanno K, Miyashita S, Sakamoto A, Abe M, Sakimura K, Sone M, Sohya K, Kunugi H, Wada K, Yamada M, Yamada K, Hoshino M: AUTS2 regulation of synapses for proper synaptic inputs and social communication. iScience, 2020 May 18;23(6):101183.

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