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2020年2月21日

自閉スペクトラム症者でのスポーツの苦手は道具が身体の一部のように感じられないからかもしれない
公募研究代表者(A01)和田真先生の論文がScientific Reportsに掲載されました

発達障害の1つである自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder, ASD)では、球技などスポーツの不得手や道具使用の困難が知られています。その背後には、身体と空間の関係の問題や予測の障害が考えられてきましたが、いまだ、はっきりとしたことはわかっていません。

国立障害者リハビリテーションセンター研究所の和田真室長(本領域公募班研究代表)は、静岡大学の宮崎真教授らと共同研究で、「皮膚兎錯覚」とよばれる現象を用いて、自閉スペクトラム症者の身体知覚を調べることで、球技などスポーツの苦手となりうる現象を発見しました。

皮膚兎錯覚とは、素早く連続する触覚刺激をまず皮膚の一点に与え、続いて、別のもう一点に触覚刺激を与えると、二点のあいだで皮膚上を小さな兎が跳ねていくような感覚が生じることを指します。両手の人差し指でスティックを持った状態で指にタップが与えられると、この錯覚がスティックの上で生じることが知られています(図1)。

和田真室長らは、自閉スペクトラム症者で皮膚兎錯覚が定型発達(Typically Developing, TD)の一般集団と同程度に生じるにも関わらず、自閉スペクトラム症者の1/3強で、この錯覚がスティック上で生じにくいことを発見しました(図2)。そして、この傾向を持つ人全員が、球技などスポーツの苦手を報告しておりました。つまり、道具が身体の一部のように感じられないことがスポーツの苦手の原因になりうることが示唆されました。

この研究を発展させることで、特に道具使用や身体に関連した多様な障害特性に対応した支援手法の選択や開発につなげることが期待されます。

図1. 皮膚兎錯覚とその派生形であるスティック兎錯覚(宮崎教授作成)

素早く連続する触覚のタップをまず皮膚の一点に与え、続いて、別のもう一点にタップを与えると、二点のあいだで皮膚上を小さな兎が跳ねていくような錯覚が生じます(皮膚兎錯覚,左図)。つまり、実際には刺激されていない皮膚上の点に、錯覚としての触覚が生じます。これまでに宮崎らは、両手の人差し指でスティックを持った状態で指にタップが与えられると、この錯覚がスティックの上で生じることを報告しています(スティック兎錯覚,右図)。本研究では、これらの実験課題を用いて、自閉スペクトラム症者の球技や道具の苦手の背景を調査しました。

図2. スティック兎錯覚課題での刺激②の回答

皮膚兎錯覚自体は、ASD者・TD者の双方で、顕著に生じることがわかりました。これに対して、スティック兎錯覚において、2番目の刺激(刺激②)をどの場所に答えているか、を調査しました。あるASDの参加者では、TD者の結果(左上)と同様に、スティックの間に刺激②を感じたと回答した一方、ある参加者では、スティック上では刺激を感じないとする回答が多く見られました(右下)。後者のような傾向は、実験に参加したASD者の1/3強にあたりました。実際には2番目には刺激されていない場所への回答であるため、皮膚兎錯覚自体は生じていたと考えられます。TD者ではこのような傾向はみられませんでした。

発表論文

Wada M, Ide M, Ikeda H, Sano M, Tanaka A, Suzuki M, Agarie H, Kim S, Tajima S, Nishimaki K, Fukatsu R, Nakajima Y, Miyazaki M. Cutaneous and stick rabbit illusions in individuals with autism spectrum disorder. Scientific Reports. 10, 1665, 2020.

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