活動

2019年1月16日

細胞の個性を胚葉を越えるまで書き換え–免疫細胞からニューロンの作製に成功
〜脳梗塞や脊髄損傷など神経疾患治療への応用が期待される成果〜
(本研究成果は、2019年1月9日に国際学術雑誌『Neuron』のオンライン版に掲載されました。)

九州大学大学院医学研究院の松田泰斗助教、今村拓也准教授、中島欽一教授らの研究グループは、世界で初めて、脳や脊髄の中で通常は免疫細胞として働くミクログリアに、たった1つの遺伝子(NeuroD1)を導入するだけで、機能的な神経細胞(ニューロン)へ直接変化(ダイレクトリプログラミング)させることに成功しました。

脊髄損傷や脳梗塞などによって神経回路が傷つき失われると、神経伝達機能が絶たれ、運動機能などが障害されます。運動機能回復のためには、新しいニューロンを損傷部位に供給することで、失われた神経回路を再構築する必要があります。ミクログリアは、神経損傷部位に集積して死細胞を除去する性質がある脳・脊髄内の免疫担当細胞ですが、通常はニューロンへ変化することはありません。研究グループは、脳の発生過程でニューロン産生に関わる重要な遺伝子であるNeurD1をミクログリアへ導入すると、ミクログリアの運命制御に関わるエピジェネティクスの書き換えが起こり、結果としてニューロンへのダイレクトリプログラミングが誘導されることを明らかにしました。人為的操作により作製されたニューロンは、既存のニューロンと類似した遺伝子発現パターンを示すだけでなく、シナプスを形成することで神経回路に組み込まれ、自発的な神経活動を行います。このように、作製したニューロンは生体のニューロンと同様の性質を有していることがわかりました。この成果は、損傷部位に集積したミクログリアからニューロンへダイレクトリプログラミングすることで実際に運動機能回復が見られる可能性を示しており、将来的な神経疾患治療への応用が期待できます。

本研究成果は、2019年1月9日(水)午前11時(米国東部標準時間)に国際学術雑誌『Neuron』のオンライン版に掲載されました。

図:NeuroD1はミクログリア内のバイバレント状態にあるニューロン特異的遺伝子に結合し、ニューロン運命プログラムを発動する。ニューロン特異的遺伝子の中には転写抑制因子(Scrt1やMeis2)も含まれ、それらはミクログリア特異的遺伝子発現に関わる転写因子の遺伝子を抑制し、ミクログリア運命プログラムを止める。

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