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2018年7月9日

Ptf1aが最上流遺伝子として、脳の男性化・女性化に働くことを発見
~脳の性別を決定する新たなメカニズム~
本研究成果は、2018年7月3日(米国東部標準時)に科学雑誌「Cell Reports(セル・リポーツ)」に掲載されました。

国立精神神経医療研究センター(NCNP)神経研究所の藤山知之研究生(現WPI-IIIS研究員)、星野幹雄部長と、筑波大学WPI-IIISの柳沢正史機構長/教授、船戸弘正客員教授らの研究グループは、Ptf1a遺伝子が胎児期の視床下部において働き、脳の男性化や女性化に関わることを明らかにしました

男性と女性では脳の構造や機能に生まれつき差異があり、その差異を出発点とし、成長を通じてものの考え方や立ち居振る舞い、嗜好などの個性に違いが現れます。ヒトを含む哺乳類の脳は「臨界期」と呼ばれる時期にテストステロン刺激を受けると男性化し、その刺激を受けないと女性化することが知られています。しかし「臨界期」以前の脳の性分化機構についてはよくわかっていませんでした。

研究グループは、膵臓や小脳の発達に関わるPtf1a遺伝子が「臨界期」より遥かに前の胎児期において視床下部と呼ばれる脳領域の神経前駆細胞で発現することを見出しました。その領域でPtf1a遺伝子を破壊したノックアウトマウスを作製したところ、その脳は「臨界期」にテストステロン刺激を受けても男性化できず、その一方でテストステロン刺激を受けない場合でも女性化できないことが観察されました。これらのことから、(1)脳の性分化(男性化または女性化)のためには、「臨界期」以前に「性分化準備状態」になる必要があること、そして(2)胎児期の視床下部Ptf1aが脳を「性分化準備状態」へと導き、その後の「臨界期」でのテストステロン刺激・非刺激によって男性脳・女性脳へと性分化させるということが明らかになりました。

これまでにも脳の性分化に関わる遺伝子はいくつか報告されていますが、Ptf1aはそれらの中で最も早く働く最上流遺伝子であり、今回の研究は脳の性分化の最初期段階を明らかにしたと言えます。本研究によって、脳の男性化・女性化のしくみがより深く理解できるようになり、今後の脳発達と性差、ひいては個性創発の研究に大きく貢献するものと考えられます。

この研究成果は、2018年7月3日(米国東部標準時)に科学雑誌「Cell Reports(セル・リポーツ)」に掲載されました。

図:Ptf1a遺伝子が胎児期に視床下部で働き、脳が「性分化準備状態」になる。その後、臨界期になるとテストステロンの刺激・非刺激によって男性脳・女性脳(オス脳・メス脳)へと性分化する。視床下部のPtf1a遺伝子を破壊したノックアウトマウスでは脳が「性分化準備状態」になることができないため、臨界期でのテストステロン刺激の有無に関わらず正常に性分化することができない。

発表論文

Fujiyama T, Miyashita S, Tsuneoka Y, Kanemaru K, Kakizaki M, Kanno S, Ishikawa Y, Yamashita M, Owa T, Nagaoka M, Kawaguchi Y, Yanagawa Y, Magnuson MA, Shibuya A, Nabeshima Y, Yanagisawa M, Funato H, Hoshino M:
Cell Reports, 2018, 24(1):79-94

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