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2018年7月30日

聞こえない小鳥でも個体ごとに特徴のある歌をうたう
~聴覚によらない生得的なメカニズムが発声パターンの個体差を生む~
本研究成果は、英国時間2018年6月7日(木)公開のScientific Reportsに掲載されました。

北海道大学大学院理学研究院の和多和宏准教授らの研究グループは、聴覚を剥奪されたカナリア(学名Serinus canaria)においても、生後発達する歌に個体ごとに個性があること、また毎年季節性に歌発達が繰り返されるにも関わらずその個体差が維持されることを明らかにしました。これは、感覚入力に依存しなくても発声(運動)パターンに個体差を作り、維持する神経行動メカニズムの存在を示唆します。

ヒトの言語や小鳥の歌は、親など他個体の発声をまねて類似した音を発することで獲得され、これを発声学習といいます。発声学習で獲得される発声パターンには個体差が生まれ、それが個体識別や個体間コミュニケーションに重要な役割を果たします。しかし、聴覚入力の有無によって発声パターンの種特異性や個体差の発達にどのような影響があるかは、よく分かっていませんでした。

小鳥として親しまれている鳴禽類めいきんるいソングバードは、発声学習の動物モデルとして行動神経科学研究で長く用いられてきました。本研究では、ソングバードの一種のカナリアを用い、発声学習のお手本となる親鳥の歌や自分の声が聞こえない状態で、どのように歌が発達し維持されるのかを詳細に解析しました。カナリアは毎年季節性に新しく歌を学びます。通常、1年目に獲得した音要素の種類を部分的に維持しつつ、新しく加えたりなくしたりして歌を変化させます。今回の研究ではこの毎年の歌変化に特に着目して実験を行いました。その結果、カナリアは聴覚入力がなくても正常な場合と同様の期間に歌を発達させ、種特異的な発声パターンを固定化することがわかりました。この聴覚入力に依存せずに発達してくる歌には、個体ごとに異なる音響特性をもっていることが分かりました。また、次の年になると前年の歌の特徴を維持しながら、部分的に新しく音要素を入れ替えることを発見しました。耳が聞こえない場合、歌のレパートリー数は減りますが、歌を構成する音要素の数や配列などには違いがありませんでした。このことは,ある割合の音要素を維持しながら残りを入れ替えるという、毎年の歌の変化が聴覚によらずに制御されていることを意味します。耳が聞こえない個体も固定化した歌を次の年にいったん崩し、再び固定化させたときに前年の歌の特徴、つまり個体差のある音響特性をもつ歌を再発達してくることが分かりました。このことは、でたらめに歌って偶然に固定化されてしまった発声パターンを歌っていたのではないことを意味します。つまり、カナリアの歌の個体差は聴覚に依らず、生得的な要因を土台にして発達していると考えられます。

聴覚による発声学習には、歌のレパートリーを増やし、メスにとって魅力的な歌を獲得することで個体差を際立たせるなど重要な役割があります。その音声発声学習の行動基盤に、種や個体ごとの制約などの生得的な要因が影響していることが考えられ、さらなる研究でその関わりが明らかになることが期待されます。

本研究成果は、英国時間2018年6月7日(木)公開のScientific Reportsに掲載されました。

図:カナリアの歌発達を聴覚ある・なしで比較した図。歌は縦軸が周波数,横軸が時間のスペクトログラム(声紋)で示した。聴覚がなくても,正常な場合と同様に発声パターンを変化させ,種特異的な(カナリアの歌としての特徴をもった)歌を完成(固定化)させた後,次の年に,前年と同様の音要素を維持しつつ,部分的に音要素を入れ替えていた。

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