活動

2017年11月2日

チンパンジー親子トリオ(父親-母親-息子)の全ゲノム配列を高精度で解明
本研究成果は2017年11月1日午後7時に英国の科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

本領域計画研究班代表である自然科学研究機構新分野創成センター 郷康広特任准教授らの研究グループは、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所 藤山秋佐夫特任教授、学習院大学 阿形清和教授、京都大学高等研究院 松沢哲郎副院長・特別教授らとの共同研究により、チンパンジー親子3個体(父:アキラ、母:アイ、息子:アユム)の全ゲノム配列(遺伝情報の配列)を高精度で決定(解明)し、父親・母親それぞれのゲノムが子どもに受け継がれる際に起きるゲノムの変化を明らかにしました。

本研究成果は、2017年11月1日午後7時に英国の科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

ゲノムに起きる変異は進化の最も重要な駆動力です。短時間に起きるごくわずかな変異の積み重ねが、生物多様性の源となります。よって、ゲノムに「いつ」「どこで」「どのように」変異が起きるのか、その詳細を明らかにすることは、生命科学の様々な問題に広く関わる重要な研究テーマです。変異率やそのパターンを精度高く推定する方法に、父親-母親-子供(親子トリオ)を用いた方法があります。両親から子への1世代の間にゲノムに生じる変異の数やパターンを直接観察する方法です。しかし、その直接観察には、それぞれのゲノム配列を精度高く決定することが必要です。それを可能にしたのが、超高速にゲノム配列を決定できる次世代シーケンサーです。ヒトの親子トリオの場合、従来考えられていた変異率と比べてはるかに低い変異率(約半分の変異率)が複数の研究結果で報告されました。しかし、データ量の不足による統計的な不確かさが残り、より精度の高い解析が必要とされていました。さらに、ヒトで得られた結果が、ヒトに特異的であるのか、それともチンパンジーとも共通するのか、不明なままでした。

そこで、今回の研究では、1世代におけるゲノム変異の詳細を明らかにするために、チンパンジー親子トリオにおいて、チンパンジーゲノム配列(約30億塩基対)の150倍以上に相当する塩基配列データ(4500〜5700億塩基対)を決定しました。それら高精度データをもとに、メンデルの遺伝法則に合わない箇所を全ゲノム中から889箇所同定し、さらに、それらを詳細に分類したところ、生殖細胞系列(精子および卵子)に起こる新規突然変異を45箇所同定することが出来ました。また、その75%は父親由来、つまり精子形成の際に生じた変異の結果生じたものであることも明らかにしました。それらの結果をもとに生殖細胞系列で起きる新規一塩基突然変異率を計算したところ、塩基あたり1世代あたり1.48✕10-8(1億塩基対あたり平均1.48個)という変異率を得ました。これはヒトの先行研究で得られた値0.96~1.2✕10-8よりも高い値になります。

ヒトの先行研究では、多くが約30倍のデータ量の解析結果であり、多くの偽陽性を含む可能性があります。実際に、チンパンジーにおいて30倍のデータ量で再解析した結果、多くの偽陽性が同定されました。親子トリオのゲノム解析は、自閉スペクラム症や統合失調症などの原因遺伝子の同定にも応用されはじめています。子どもが疾患を発症しているものの両親が発症していないような家系を対象とした、新規突然変異の解析が行われています。しかし、精度の低い配列結果から得られた結果からは、多くの偽陽性が得られ、信頼のおける結果を得ることが未だに難しい状況にあります。

今回の研究で明らかにした結果、および解析手法は、その精度と信頼性の高さから、今後ヒト疾患研究における新たな解析手法を提供でき、新たな候補遺伝子の同定が進むことが期待できます。

プレスリリースはこちら