活動

2018年9月18日

第61回日本神経化学会大会・第40回日本生物学的精神医学会合同年会にて、 「個性」創発脳 共催シンポジウムが行われました

東京大学大学院薬学系研究科 薬品作用学教室
佐々木 拓哉

2018年9月6日から8日に、第61回日本神経化学会大会・第40回日本生物学的精神医学会合同年会が神戸国際会議場において開催され、6日に新学術領域「個性創発脳」共催としてシンポジウム「神経系の発生・機能とその破綻」が行われました。学会は、関西地方へ台風21号が直撃した直後に行われましたが、そのような中でも、多くの参加者が集い、活発な議論が交わされました。

シンポジウムでは、本領域から大隅(領域代表)、星野(計画)が座長を務め、発表者として堀(星野研究室)、佐々木(公募)、大隅(領域代表)の3名が登壇しました。さらに、金沢大学より河崎洋志先生を加え、4名の先生が最先端の発表を講演しました。それぞれの先生の研究内容は、すべて脳の個性を説明するための重要な研究成果になります。

1人目の河崎先生(金沢大)は、脳の「しわ」構造を有するフェレットを研究ツールとして用い、新しい遺伝子導入法を独自に確立し、大脳皮質表層の神経細胞数の増加と脳回を形成する新しいメカニズムを紹介されました。こうした研究分野に疎い私のような聴衆でも、生物の進化や発達の本質として、重要な研究であることが実感できました。

2人目の堀先生(神経研)は、自閉症感性遺伝子が生後脳発達期のシナプス形成において、興奮性・抑制性シナプスのバランスを制御する生理機能を有することを見出したことを発表されました。さらに、遺伝子改変動物を用いた行動解析など、分子、構造から行動までをつなぐ膨大なデータを理路整然と紹介されました。近年の脳研究では、マルチスケールレベルでの多様な実験アプローチが必要とされていますが、そのような研究潮流の模範となるような発表でした。

3人目の佐々木(東大)は、中枢と末梢の臓器活動を記録するための電気生理学的計測法を開発し、ストレス応答に対する動物の個体差を脳活動から予測するという試みを紹介しました。私の研究分野は、聴衆の方々の専門分野とは少々異なっている可能性を危惧しておりましたが、発表に対する反応や質問もいただけたことから、無事に主張は伝わっていたのではないかと安心しております。

4人目の大隅先生(東北大)は、加齢したオスのマウスから得られた子孫マウスでは、いくつかの行動成績に障害が見られることを紹介しました。また、トランスクリプトーム解析などを組み合わせて、こうした子孫マウスの脳内では、DNAメチル化や自閉症関連遺伝子の発現制御が変化していることを示されまれました。基礎的な発達研究や病態研究の域を超えて、現代社会の多くの人々の関心に答える興味深い研究成果だと感じました。

ご講演された先生方とご来場頂きました先生方に御礼申し上げます。

(以上のレポートは、神経研の堀先生にも解説をいただき、作成しました。)

座長

大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科発生発達神経科学分野)
星野 幹雄(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所病態生化学研究部)

演者

河崎 洋志(金沢大学医学系脳神経医学分野)
フェレットを用いた大脳皮質の脳回形成機構の解析

堀 啓(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 病態生化学研究部)
発達期脳におけるシナプス形成および脳高次機能獲得に関わるAUTS2の生理機能解析

佐々木 拓哉(東京大学大学院薬学系研究科 薬品作用学教室)
個体差を考慮した精神的ストレスにおける中枢末梢連関の解析

大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科発生発達神経科学分野)
父加齢はどのように次世代の神経発生に影響するのか:発達障害のエピジェネティックモデルとして