領域の概要

「個性」はどのように創発されるのであろうか? さまざまな「個性」は、ゲノムの個体差(個人ごとの特徴)が元になっているが、育ち方や生活習慣等の環境的要因によっても「個性」の発露は変化する。これは、環境によって遺伝子の働き方が異なる「エピゲノム」機構が存在するからである。認知的能力やパーソナリティなど、脳神経系の機能に依存した心的機能においても「個性」は認められるが、その神経基盤や遺伝的・環境的背景については未だ十分には明らかにされていない。しかしながら近年、ヒトの脳画像等のデータや動物の各種行動観察データ、神経活動データ等の「ビッグデータ」を扱える時代となり、多変量統計解析やデータ駆動型研究を行うことが可能となった。まさに時代は今、「個性」の研究に取り組む好機となっている。このような学術的背景をもとに、新学術領域・複合系において本領域を立ち上げることとなった。

上記文章を表した図

本新学術領域研究では、脳神経系発生発達の多様性を解明することにより、「個性」創発の理解を目指す。多様な分野の研究者が連携し、「個性」を客観的・科学的に理解することで、胎児から成人までのヒトを対象とし、行動、認知、性格等における「個性」の発現について、その脳内基盤を明らかにする。さらに、遺伝的背景がより均一である齧歯類等のモデル動物を用い、生殖細胞形成や発達過程における遺伝・環境的な変動が動物の脳活動や行動様式に与える影響を調べることで、「個性」形成の分子脳科学的基盤を明らかにする。また、モデル動物以外の動物での比較研究も行い、「個性」発現における進化的背景も考慮した包括的研究を目指す。

技術面においては、研究推進に必要な種々の解析システム・解析装置の開発や数理モデル構築を行う。上記の国際的なデータシェアリングプラットフォーム構築を推進するとともに、「個性」研究の孕む倫理的な問題点についても整理し、社会に発信する。